帰国子女が日本語できない…と悩む前に。何が起きているのかと、家庭でできる立て直し

「帰国子女が日本語できない、と悩む前に」と書かれた記事のキービジュアル

「帰国子女 日本語できない」。検索窓にこの言葉を入れたとき、あなたが見ていたのは、たぶん目の前のお子さんの顔でした。現地の学校にはすっかり馴染んで、英語(あるいは現地のことば)はどんどん伸びている。なのに日本語だけが、いつまでも学年相当にならない。漢字が抜ける。作文が書けない。補習校のプリントに何時間もかかる。ついに「補習校、行きたくない」と言われた——。

先に、いちばん伝えたいことを書きます。その状態は、あなたの家庭の努力不足でも、お子さんの能力の問題でもありません。会話の日本語と、授業で使う日本語は、そもそも育つ速さが違う。そして海外で暮らすかぎり、日本語に触れる時間の総量は構造的に足りない。この2つが重なれば、ほとんどの子に同じことが起きます。この記事では、公的な資料で確かめられる事実だけを積み上げて、いま何が起きていて、家庭で何を変えられるのかを整理します。

目次

結論:帰国子女なのに日本語ができないと感じたとき、先に知っておきたいこと

  • 国も、帰国した子どもを日本語指導の対象に数えています。文部科学省は日本語指導が必要な児童生徒に海外から帰国した児童生徒を含め、日常会話ができても学年相当の学習言語能力が不足している子も対象としています(文部科学省「日本語指導の対象となる児童生徒」)。
  • あなたの家庭だけではありません。令和7年度調査では、公立学校で日本語指導が必要な児童生徒は84,759人と過去最高。うち日本国籍の子どもは11,446人です(文部科学省, 2026年5月公表)。
  • 会話の日本語は約2年、授業の日本語は5〜10年。文部科学省委託の研修資料は、生活言語能力の習得におよそ2年、学習言語能力に5〜10年としています。時間の桁が違います。
  • 補習授業校は「日本の学校の再現」ではありません。文部科学省自身が、限られた時間の中で内容を精選して基礎基本を教える場と説明しています。ついていけないのは当然設計に近い。
  • 帰国後は、公立学校で「特別の教育課程」による日本語指導を受けられる場合があります。制度の有無は自治体・学校で差があるため、帰国前に問い合わせておくのが確実です。
  • 家庭でやることは3つだけ——目標をペラペラから置き換える/毎日15分を固定する/話したことを1行書く。記事の後半で具体的に扱います。
明るいリビングのソファで、保護者と一緒に日本語の本を開いて読んでいる小学生くらいの子ども
日本語が育つ場所は、教室よりも先に、家のソファだったりします。

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    「帰国子女なのに日本語できない」は、あなたの家庭だけの話ではない

    まず、この不安がどれくらい共有されているかを数字で見ておきます。気休めのためではなく、個人の問題ではなく構造の問題だと確認するためです。

    国が数えている「日本語指導が必要な児童生徒」には、帰国した子も入っている

    文部科学省は、日本語指導が必要な児童生徒を「日本語で日常会話が十分にできない児童生徒」及び「日常会話ができても、学年相当の学習言語能力が不足し、学習活動への取組に支障が生じている児童生徒」と定義し、そこに海外から帰国した児童生徒を明記して含めています(文部科学省「日本語指導の対象となる児童生徒」)。

    この定義の後半を、もう一度読んでみてください。日常会話ができても、です。ふつうにおしゃべりできる子が、それでも学習活動でつまずく。国がわざわざこの一文を入れているということは、それが例外ではなく、よくあるパターンとして把握されているということです。あなたが感じている「話せているのに、なぜ」という違和感は、制度の側にもすでに書き込まれています。

    日本国籍で日本語指導が必要な子どもは11,446人

    文部科学省が2026年5月25日に公表した令和7年度の調査(調査時点=令和7年5月1日)では、公立学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒は84,759人で過去最高。その内訳は外国籍73,313人、日本国籍11,446人でした(文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和7年度)」)。

    この調査は日本国籍の児童生徒についても言語別の在籍状況を集計しているのですが、そこで最も多いのは「日本語」で3,166人、次いで英語2,110人でした。日本語を使って暮らしている子どもが、それでも学校の日本語で支援を必要としている。この一行は、日本語ができないことと、学校の日本語で困ることは、同じではないという事実を、そのまま示しています。

    もちろんこの11,446人は帰国子女だけの数字ではなく、国際結婚のご家庭なども含まれます。帰国子女だけを取り出した統計は公表されていないので、ここは断定しません。それでも、同じ困りごとを抱えた子どもが全国に万単位でいるという地図は持っておいていいと思います。

    なぜ日本語だけが苦手なままに見えるのか——生活言語と学習言語のズレ

    ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。原因は3つに分けられます。

    帰国子女の日本語だけが伸び悩む3つの構造を示した図。会話の日本語と授業の日本語は習得にかかる年数が違う・日本語で学ぶ時間が構造的に足りない・使う機会が減った言語は静かに後退する
    3つとも、時間と接触量の話です。だからこそ、設計しなおせば動かせます。

    1. 会話の日本語は約2年、授業の日本語は5〜10年

    文部科学省委託事業として作られた研修用資料では、ことばの力を2つに分けたうえで、日常生活のことば(生活言語能力)の習得におよそ2年、授業のことば(学習言語能力)の習得に5〜10年という目安が示されています(文部科学省委託 研修用動画コンテンツ2「外国人児童生徒等教育の考え方」)。同じ資料は、「温める/冷たくなる」が生活のことばなら、「熱する/冷却される」が授業のことばだ、という具体例も挙げています。

    この数字を頭に置くと、いま起きていることの見え方が変わります。お子さんの日本語が止まっているのではなく、遅いほうの時計がまだ回っている途中なのです。一般に示されている目安であり、子どもによって幅があることは前提ですが、「2年経っても学年相当にならない」のは異常ではなく、むしろ想定内だと分かります。

    2. 日本語で学ぶ時間が、構造的に足りない

    海外での1週間を思い浮かべてください。平日は現地校やインターで、朝から夕方まで現地語。家に帰ってから日本語、週末に補習校。単純に時間を積み上げれば、日本語に触れる量は日本にいる子どもの何分の一かになります。日本語だけが伸びないのではなく、日本語だけが練習時間を持てていない、というほうが実態に近い。

    3. 使わない期間が続いた言語は、静かに後退する

    もうひとつ、正直に書いておきます。言語学には言語摩耗(first language attrition)という研究領域があり、母語であっても接触が弱まると運用が落ちることが報告されています。ある総説論文は摩耗を「以前に習得した言語の、病理によらない低下」と定義したうえで、第一言語との接触が弱い人ほど摩耗の度合いが大きいという報告を紹介しています(Gallo et al., Frontiers in Human Neuroscience, 2021)。

    ただし同じ論文は、子どもの場合に起きていることは厳密には「摩耗」ではなく「習得が途中で止まった状態」ではないか、という議論も併記しています。研究の側でもまだ結論が分かれているので、ここを「手遅れ」と読む必要はまったくありません。私たちが実務的に受け取っておけばいいのは、接触量が効く、というただ一点です。

    なお、2つの言語がどちらも中途半端に見える状態には呼び名がついていて、不安を大きくしがちです。その現象そのものについてはダブルリミテッドと呼ばれる状態の実際とセミリンガルという言葉の扱いで別に整理しました。インターに通いながら日本語が遅れる話はインターナショナルスクールで日本語が遅れるときにまとめてあります。この記事では、帰国子女という立場に絞って話を進めます。

    補習校についていけない・辞めたいと言われたとき

    この記事にたどり着く方の多くが、同時に抱えている問題です。ここは判断の材料を渡します。

    補習授業校は、日本の学校を再現する場所ではない

    まず前提の確認から。補習授業校は、文部科学省の説明では現地の学校や国際学校等に通学している日本人の子どもに対し、土曜日や放課後などを利用して、国内の小学校または中学校の一部教科について日本語で授業を行う教育施設です。令和6年7月1日現在、世界51か国・1地域に242校が設置されており、令和6年4月15日時点で約2万1千人が学んでいます(文部科学省「在外教育施設の概要」)。

    そして文部科学省自身が、補習授業校について「平日は現地校等に通う子どもたちが週末に国語を中心に学んでいます。限られた時間の中、教育内容を精選するなどの工夫をしつつ、基礎基本を教育しています」と書いています(文部科学省「補習授業校の教育活動」)。一部教科・限られた時間・精選された内容。つまり補習校は、日本の学校5日分を週末に詰め込む場所ではないし、そう設計されてもいません。にもかかわらず宿題は日本の進度に並びます。ついていくのが大変なのは、お子さんが怠けているからではありません。

    続けるか辞めるかを決める4つの判断軸

    そのうえで、続ける/辞めるは家庭ごとに答えが違います。感情ではなく、次の4つで考えてみてください。

    • 日本語を使う場が、ほかに残るか。辞めた瞬間に日本語で話す相手がゼロになるなら、辞めるのではなく置き換えが必要です。
    • いま削るべきは在籍か、宿題の量か。学校に相談して提出量を調整できるなら、辞めずに済む場合があります。まず聞いてみる価値はあります。
    • 親子関係のコストが割に合っているか。週末が毎回けんかで終わるなら、それは日本語の学習効率としても最悪です。日本語を嫌いにさせるのがいちばん高くつきます。
    • 帰国の予定があるか。1〜2年以内に帰国するなら、読み書きの土台は続けておいたほうが着地が楽になります。予定がないなら、優先順位は変わります。

    辞めるという結論も、正しい選択になり得ます。大事なのは、辞めることと、日本語をやめることを同じにしないことです。

    海外や帰国後に日本語を続ける3つの形を比較した表。補習授業校・家庭学習だけ・オンラインで日本語も教科もの列を、日本語で話す機会・読み書きの積み上げ・教科のことば・通学の負担・対面の活動で比較している
    どれが正解かではなく、いまの形に足りない列を何で補うか、で考えます。

    帰国後の小学校での日本語と、受けられる日本語指導

    帰国が視野に入っているご家庭へ。ここは知っているかどうかで受けられる支援が変わる領域なので、先に押さえておいてください。

    「特別の教育課程」という制度がある

    公立の小学校・中学校・中等教育学校の前期課程・特別支援学校の小中学部では、日本語指導が必要な児童生徒に対して、在籍学級の教育課程の一部の時間に替えて、在籍学級以外の教室で日本語指導を行うことが制度として認められています(文部科学省「特別の教育課程による日本語指導の位置付け」)。いわゆる取り出し指導です。

    令和7年度の調査では、義務教育段階でこの「特別の教育課程」による指導を受けている児童生徒は52,725人。高等学校段階でも令和5年度から制度が導入され、947人が受けています。一方で、日本語指導が必要な児童生徒84,759人のうち、学校で何らかの日本語指導を受けられていない子は9,699人(11.4%)いました。制度はあるが、自動的には届かない。ここが実務上いちばん大事な事実です。

    帰国前に、学校・自治体へ確認しておく5つのこと

    • 転入予定の学校に日本語指導の担当者や取り出し指導の体制があるか(窓口は市区町村の教育委員会)。
    • 学年の判断をどうするか。年齢どおりか、相談の余地があるか。学校長の判断で運用が変わる部分があります。
    • 取り出し指導を受けている間、在籍学級の授業はどう扱われるか。
    • 日本語の力をどう見るか(測定の方法や、誰が判断するか)。
    • 使える教材や多言語の学校文書。文部科学省が運営する検索サイトかすたねっとでは、外国につながりのある児童・生徒向けの教材や保護者向け文書を探せます。制度の全体像は文部科学省「帰国・外国人児童生徒教育情報(CLARINET)」にまとまっています。

    自治体によって体制の厚さはかなり違います。住む場所を決める前に聞くと、選択肢が残ります。

    自宅の机に並んで座り、ヘッドホンをつけてオンラインの授業に参加している子どもと、隣でノートに書いているきょうだい
    住む場所が変わっても、日本語を続ける場所だけは変えずに済む形もあります。

    帰国後、日本語に追いつくための勉強——順番と学年別の目安

    ここからは「帰国後 日本語 追いつく 勉強」と調べている方に向けた章です。遅れを取り戻すうえで大事なのは、量より順番です。毎日の習慣づくりは次の章の3ステップで扱うので、ここでは「何を、どの順で」に絞ります。

    追いつくまでの期間の目安——「半年で元どおり」を前提にしない

    授業の日本語に5〜10年という目安は、前の章で紹介したとおりです。海外の研究でも、カナダ・トロントの移民の子どものデータを再分析したカミンズは、会話の力は比較的早く育つ一方で、教科学習のことばが学年の水準に近づくまでには平均5〜7年かかったと報告しています(Cummins, “BICS and CALP: Empirical and Theoretical Status of the Distinction”)。

    ただし、これは英語を第二言語として学んだ子どもの数字です。家庭で日本語を使ってきた帰国子女は出発点が違うので、そのまま当てはめることはできません。もっと早く追いつく子もいます。持っておきたいのは「帰国後すぐ学年相当」ではなく、まず授業に参加できる、次に学年相当に近づくという2段階のゴールです。文部科学省の手引も、日本語指導を「日常会話ができるまで」「在籍学級の授業に参加できるまで」といった段階で考えるよう示しています(文部科学省「外国人児童生徒受入れの手引(改訂版)」第3章)。

    勉強の順番——国の手引の5つのプログラムを、帰国子女向けに読み替える

    同じ手引は、学校での日本語指導を①サバイバル日本語、②日本語基礎、③技能別日本語、④日本語と教科の統合学習、⑤教科の補習の5つに整理しています。もとは日本語を初めて学ぶ子ども向けですが、帰国子女に当てはめると始める場所が見えてきます。

    • ①②はたいてい済んでいる。会話ができる帰国子女は、生活の日本語や基本の文型をすでに持っていることが多く、やり直す必要はあまりありません。
    • 最初に手をつけるのは③の「読む」と「書く」。手引は、日常会話では「まとまった内容を読み取る力」「文章を書く力」が付きにくく、高学年以上ではそこに焦点を当てた指導が重要だとしています。話せるのに書けない、の正体はここです。
    • 並行して④の「教科のことば」。算数・理科・社会で使う日本語を、教科の内容とセットで覚えます(下の「国語以外の教科こそ」で扱います)。
    • ⑤の補習は、授業で分からなかったところを埋める用途に限る。補習だけを積み上げると、いつまでも「今の授業の後追い」から抜け出せません。

    小学校低学年(1〜2年)で帰国したら:音読と、ひらがな・カタカナ・漢字の土台

    小学校で習う漢字は学年別漢字配当表で決まっていて、全部で1,026字。1年生は80字、2年生は160字です(文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」国語・別表)。

    手引は、低学年の子のことばの強みを音の聞き取りや発音、場面と一緒に表現を丸ごと覚えられることだとしています。だから机に向かうより、読み聞かせと音読、しりとりや買い物の会話のほうが効きます。ひらがな・カタカナの読み書きに抜けがあれば、そこを最優先に。

    小学校中学年(3〜4年):まず「読める」、書くのは1学年遅れでいい

    意外と知られていないのですが、学習指導要領では3年生以降、漢字はその学年までの漢字を読み、書くのは前の学年までの漢字(その学年の漢字は「漸次」書く)という扱いになっています。つまり国の基準自体が、書くのは読むより1学年遅れでいい設計です。

    帰国後に漢字を取り戻すときも、この順番をそのまま借りてください。読めない字をなくすのが先、書けるようにするのはその後。3年生200字、4年生202字と量が増える時期なので、前の学年の漢字を「読み」だけで一周すると、教科書が一気に読みやすくなります。

    小学校高学年(5〜6年):英語で育てた「考える力」を日本語に移す

    高学年での帰国には、低学年にない強みがあります。手引は、小学校高学年以上の子どもは、母語で培った考える力・分析する力・言葉の概念の知識を利用して第二言語を学べると説明し、言語どうしは深いところの認知的な力を共有しているという考え方を紹介しています。帰国子女に置き換えると、現地校で英語(現地語)によって身につけた「比べる」「理由を述べる」「要約する」力は、日本語の学習でもそのまま使えるということです。

    だからこの時期は、知っている概念に日本語のラベルを貼る学習が効率的です。英語で理解している内容なら、日本語で覚えるのは言い方だけで済みます。もうひとつ、5・6年生の国語には「日常よく使われる敬語を理解し使い慣れること」が入っています。帰国子女がつまずきやすい敬語は、家庭の会話や手紙で少しずつ練習しておくと中学進学が楽になります。

    中学生:「1,026字のうち900字程度を書ける」を当面のゴールに

    中学校の学習指導要領では、1年生で小学校の1,026字のうち900字程度を書き、ほかの常用漢字300〜400字程度を読むこと、3年生で常用漢字の大体を読むことが示されています(前掲の文部科学省資料に併録の「中学校学習指導要領(平成29年告示)」国語)。常用漢字は全部で2,136字です(文化庁「常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)」)。

    小学校の漢字は「読める」まで一気に、「書ける」は900字程度を目標にと分けてください。手引も、4技能のどれかに絞る学習は「小学校高学年以上、特に中学生」に有効だとしています。読解と作文に時間を寄せ、教科担任制で先生ごとに違う用語は、各教科の教科書の太字だけを拾っていくのが現実的です。

    国語以外の教科こそ、日本語が要る

    見落としやすいのがここです。文部科学省のJSLカリキュラムは、日本語ができるようになれば、学習活動に参加する力も自然に身につくとは限らないという問題意識から、日本語と教科の学習を一体で進める考え方をとっています(文部科学省「JSLカリキュラム開発の基本構想」)。国語より先に算数の文章題や社会の用語でつまずくのは、よくあることです。

    • 算数・数学:計算はできるのに、文章題の「〜ずつ」「〜あたり」「〜ば」でつまずく。問題文の言い回しだけを抜き出して練習します。
    • 社会:「輸出」「輸入」「都道府県」のような漢字の多い用語が一気に出ます。英語で知っている概念なら、日本語の言い方を対にしてノートに書くだけで進みます。
    • 理科:「温める」が「熱する」になるように、書きことばの語彙に置き換わります。実験の手順を音読するのが近道です。

    教科書・学校の指導・塾や通信教育の使い分け

    教科書は、海外にいるうちから手に入ります。文部科学省は日本人学校・補習授業校の児童生徒をはじめ、海外に在留する子どもに小・中学校用教科書を無償で給与しています(文部科学省「在外日本人子女への教科書無償給与」)。帰国後に追いつく勉強は、前の学年の教科書の音読から始めるのがいちばん確実です。

    帰国後は、学校の取り出し指導の内容を担任の先生と共有してもらうよう頼んでみてください。手引も、取り出し指導と在籍学級の学習を関連付けることを重視しています。学校が文部科学省の対話型アセスメントDLAなどで日本語の力を測っていれば、結果を聞くと家庭の優先順位が絞れます。

    塾や通信教育を使うなら、役割を分けるのがコツです。個別指導は「いまの授業で分からなかったところ」、通信教育やドリルは「前の学年の漢字と読解の積み上げ」。両方を一か所に任せると、宿題に追われて土台が後回しになります。作文については、手引が「まず内容を組み立てて日本語で表すことを重視し、字の正確さは同時に求めない」としている点も覚えておいてください。

    最後に、日本語に集中するあまり英語(現地語)をゼロにしないこと。そこで育てた考える力は、日本語の学習言語の土台でもあります。

    家庭で学習言語を伸ばす3ステップ(今日から始められること)

    ここからは、学校や補習校の外側で、家庭が設計できる部分です。特別な教材はいりません。

    帰国子女の日本語を家庭で立て直す3ステップの図。目標を置き換える・毎日15分日本語で考える時間を固定する・話したことを1行だけ書く
    量を増やすより、測れる目標と、続く仕組みのほうが効きます。

    ステップ1:目標を「ペラペラ」から置き換える

    日本語がペラペラ、という目標は測れません。測れない目標は、家庭では必ず「まだできていない」という評価に変わり、子どもを追い詰めます。置き換えるなら、学年の教科書を1ページ音読して、書いてあったことを自分のことばで説明できる——これくらい具体的なところに置いてください。これは学習言語そのものの訓練であり、達成が目に見えます。

    ステップ2:毎日15分、日本語で考える時間を固定する

    週末に2時間より、毎日15分のほうが続けやすいと一般に言われます。言語は接触の回数に支えられるからです。ご家庭の生活リズムで、無理のないほうを選んでください。内容は難しくなくて構いません。今日学校であったことを日本語で説明してもらう。日本語の本を交代で音読する。大事なのは時間帯を決めて、家族の予定に埋め込んでしまうこと。気が向いたらやる設計は、必ず続きません。

    ステップ3:話したことを、1行でいいから書く

    帰国子女の典型は話せるのに書けないです。話しことばと書きことばは、日本語ではとくに距離が離れています。そこで、説明してもらった内容を、その場で1行だけ書いてもらう往復を挟みます。1行でいい。漢字は間違っていていい。話す→書くの変換を毎日通すことが、作文とテストの日本語につながっていきます。

    もうひとつ、家庭だけで抱え込まない選択肢も書いておきます。日本語を教えるのは、親にとってはかなり難しい仕事です。親が先生役を兼ねると、関係のほうが先に消耗します。日本語が不安なご家庭には姉妹サービス〈ともだちじゃぱん〉もおすすめです。第三者が入るだけで、家の会話から評価の色が抜けます。

    オンラインでの学びのしくみを見る →

    大人になってからの日本語は、間に合うのか

    「帰国子女 日本語 できない 大人」で検索している方もいます。ご本人かもしれませんし、将来を心配している保護者かもしれません。

    ここは正直に、留保つきで書きます。大人になってから母語をやり直した人は現にいますし、学習言語は、大人になってからでも伸ばせる領域だとされています。一方で、子どものときのほうが自然に身につきやすい面があることも、研究では指摘されています。つまり「もう無理」でもないし、「いつでも簡単」でもない。

    実務的に言えば、大人の日本語やり直しは目的を絞れるぶん、子どもより設計しやすいという利点があります。仕事のメールが書きたいのか、家族と深い話がしたいのか、日本の大学で学びたいのか。目的が決まれば、必要な語彙も文体も絞れます。少なくとも、いまのお子さんの年齢で扉が閉じることはありません。そのうえで、選べるなら早いほうが楽だ、というだけの話です。

    第三の選択肢——日本語を切らずに、世界とつながって学ぶ

    ここまでの整理を、ひとことにします。足りないのは能力ではなく、日本語で考えて話して書く時間と、それを続けられる場所です。そして海外在住のご家庭がいちばん困るのは、引っ越しや帰国のたびに、その場所がリセットされてしまうことです。

    私たち NIJIN GLOBAL ACADEMY(NGA)が2027年9月の開校に向けて設計しているのは、そこに手が届く形の学校です。校舎を持たないオンラインなので、住む国が変わっても、帰国しても、同じ場所で学びつづけられる設計にしています。テストの点数で子どもを並べない脱偏差値の国際学校で、少人数の対話を学びの中心に置いています。「あなたはどう思う?」から始まる授業は、話せるが書けないの手前にある、自分の考えを日本語で組み立てる練習そのものになります。言語は日本語の支えを前提に、少しずつ英語に触れられる設計です。対象はアジア・オセアニアの6〜18歳。学費は対面インターのおよそ5分の1を目指しています。

    運営は株式会社NIJIN。国内のオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」には900名を超える子どもたちが在籍しています。正直に書けば、NGAはまだ開校前で、帰国生の受け入れ実績もこれからです。対面の学校と同じ体験を約束するものでもありません。2027年4〜5月にプレ開校として体験クラスを予定しているので、中身を見てから判断していただければ十分です。

    よくある質問

    帰国子女なのに日本語ができないのは、珍しいことですか?

    珍しくありません。文部科学省は日本語指導が必要な児童生徒に海外から帰国した児童生徒を含めており、日常会話ができても学年相当の学習言語能力が不足している場合を対象としています。令和7年度調査では、公立学校に在籍する日本国籍で日本語指導が必要な児童生徒は11,446人でした。帰国子女だけの内訳ではありませんが、同じ困りごとを抱える家庭が全国に多数いることは確かです。

    日本語が苦手なまま帰国して、小学校の授業についていけますか?

    最初は苦労することが多い、というのが正直なところです。ただし公立の小学校・中学校では「特別の教育課程」による日本語指導(取り出し指導)が制度として認められており、義務教育段階で52,725人が受けています。体制の厚さは自治体や学校によって差があるため、転入前に市区町村の教育委員会へ確認しておくと、受けられる支援が変わります。

    補習校についていけないとき、辞めてもいいですか?

    辞めるという判断も選択肢です。ただし、辞めることと日本語をやめることは分けて考えてください。日本語で話す場がほかに残るか、宿題の量だけ学校に相談できないか、週末の親子関係のコストが割に合っているか、帰国の予定があるか。この4つで検討すると、感情ではなく条件で決められます。

    家庭でできる日本語指導には、どんな方法がありますか?

    毎日15分を固定して、学校であったことを日本語で説明してもらい、その内容を1行だけ書いてもらう。この往復が家庭で取り入れやすく、続けやすい方法のひとつです。目標は「ペラペラ」ではなく「学年の教科書を音読して自分のことばで説明できる」に置き換えてください。親が先生役を抱え込むと関係が消耗するので、第三者の力を借りるのも有効です。

    帰国後、日本語の遅れはどれくらいで取り戻せますか?

    子どもによって幅があり、一律の期間は言えません。文部科学省委託の資料では、生活のことばに約2年、授業のことばに5〜10年という目安が示されています。ただしこれは主に日本語を第二言語として学ぶ子どもの目安で、家庭で日本語を使ってきた帰国子女は出発点が違います。まず「授業に参加できる」、次に「学年相当に近づく」と2段階でゴールを置くと、焦らずに進められます。

    帰国後の日本語の勉強は、何から始めればいいですか?

    会話ができるなら、最初は「読む」からです。前の学年の教科書を音読し、前の学年までの漢字を読めるようにします。学習指導要領でも、3年生以降は漢字を「その学年までを読み、前の学年までを書く」扱いなので、書くのは読むより後で構いません。並行して、算数の文章題や社会・理科の用語など、国語以外の教科で使う日本語も押さえていくと、授業についていきやすくなります。

    大人になってからでも、日本語はやり直せますか?

    やり直している方はいます。学習言語は、大人になってからでも伸ばせる領域だとされています。一方で、子どものときのほうが自然に身につきやすい面があることも指摘されており、早いほうが楽なのは確かです。大人の場合は目的(仕事のメール、家族との会話、進学)を絞れるぶん、必要な語彙と文体を限定できるという利点があります。

    日本語は、まだ育ちます

    「このままで日本の学校に戻れるのか」。その問いを何度も飲み込んできたことを、私たちは知っています。けれど、ここまで一緒に確かめてきたのは、授業の日本語は5〜10年かけて育つものであること、国の側もその子たちを最初から対象に数えていること、そして家庭で動かせる変数は接触の量と回数であることでした。どれも、お子さんの資質についての話ではありません。

    英語(現地語)が伸びたのは、失敗ではなく成果です。その成果を手放さずに、日本語の時計をもう一度回し始めればいい。目標を置き換える。毎日15分を固定する。話したことを1行書く。今日始められるのは、それくらいのことです。そしてそれで十分に足ります。

    NIJIN GLOBAL ACADEMYは2027年9月開校(予定)、2027年4〜5月にプレ開校の体験クラスを予定しています。海外からでも帰国後でも続けられる学びのしくみや、1期生募集の情報をメールでお届けします。

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