「日本にいながら、うちの子をバイリンガルに育てられるだろうか」——検索窓にその言葉を入れたあなたに、先に結論をお伝えします。日本在住でも、バイリンガルに育てることはできます。ただし「簡単に」「すぐに」ではありません。会話がなめらかになるまでに数年、教科を英語で理解して意見を書けるレベルまでにはさらに年単位の時間がかかる、というのが研究が示している現実です。逆に言えば、時間さえ味方につければ、日本在住という条件そのものはハンデではありません。この記事では、バイリンガルの育て方を日本在住の家庭の現実に合わせて0〜12歳の4つの時期に分け、それぞれ「何を目標にし、何をやり、何をやらないか」を出典つきで整理します。そして最後に、小学校中学年以降でほとんどの家庭がぶつかる壁と、その越え方をご提案します。
この記事でわかること
- バイリンガルになるまでに、実際どれくらいの年数がかかるのか(研究ベース)
- 0〜3歳/3〜6歳/6〜9歳/9〜12歳の、時期別にやること・やらないこと
- おうち英語・英会話・対面インターが、それぞれどこで止まりやすいか
- 日本の学校を辞めずに「英語で教科を学ぶ時間」を足すという第三の道

「バイリンガルの育て方」を日本在住で考えるとき、最初に知るべき3つの現実
ロードマップの前に、土台になる事実を3つだけ共有させてください。ここを知らずに走り出すと、たいてい途中で「うちの子には向いていなかった」と感じてやめてしまいます。
現実1:会話の英語と、考えるための英語は、育つ速度が違う。 カナダの言語学者ジム・カミンズは、第二言語の力をBICS(生活言語能力=日常会話)とCALP(学習言語能力=教科を理解し論じる力)に分けました。移民の子どもを対象とした調査では、会話の流暢さが学年相当に届くのはおよそ2年、一方で学習に関わる言語力が学年相当に達するまでには平均して5〜7年かかると報告されています(英語教育協議会ELECによる解説)。つまり「英語で話せている」ことと「英語で学べている」ことの間には、数年分の距離があります。
現実2:日本の学校の英語だけでは、量がまったく足りない。 文部科学省の学習指導要領が定める標準授業時数は、小学3・4年の外国語活動が年35単位時間、小学5・6年の外国語科が年70単位時間、中学校の外国語が各学年140単位時間。小3から中3までの9年間で630単位時間、実時間にするとおよそ510時間、1年あたり約57時間です。実際、文部科学省の令和6年度「英語教育実施状況調査」では、中学3年生でCEFR A1相当(英検3級程度)以上の力があると判断された生徒は52.4%。9年かけて半数が英検3級というのが、学校教育だけに任せた場合の到達点だとわかります。これは学校が悪いのではなく、そもそも与えられている時間が違うという話です。
現実3:土台になるのは、英語ではなく日本語。 カミンズの相互依存の原則——第一言語で育った概念や思考の力は、第二言語にも転移する——は、バイリンガル教育の基本になっている考え方です。トロント大学名誉教授の中島和子氏は、この関係を接ぎ木にたとえ、母になる木が弱ければ接ぎ木も伸び悩むと説明しています。どちらの言語も年齢相応に育たない状態はダブルリミテッドと呼ばれ、日本でも研究が重ねられてきました。日本語を削って英語を増やすという発想は、日本在住のご家庭にとって、いちばん避けたい落とし穴です。

0〜12歳のロードマップ:時期別に「やること」と「やらないこと」
ここからが本題です。年齢はあくまで目安で、お子さんの日本語の発達具合によって前後します。大切なのは順番です。
0〜3歳:目標は「英語の音を気持ち悪がらない」こと
この時期に狙うのは英語を話させることではありません。英語の音を、脳が異物として排除しないようにしておくことです。歌、語りかけ、短い絵本。1日10〜15分でも、毎日続くほうが効きます。
ひとつだけ注意点があります。ワシントン大学のパトリシア・クール博士らが2003年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)で報告した実験では、9か月の乳児に中国語を生身の話者との関わりの中で与えた場合には音の聞き分け能力が保たれた一方、同じ内容を録画・録音で与えた場合には効果が確認されませんでした。乳幼児期の言語学習には、人とのやりとりが必要だということです。動画をつけっぱなしにするだけでは、思ったほど積み上がりません。やらないこと:発音の矯正、単語テスト、日本語の絵本を減らすこと。
3〜6歳:目標は「英語=楽しい」の記憶をつくること
日本語が爆発的に伸びる時期です。だからこそ、ここで日本語を削らない。英語は遊び・歌・ごっこ遊びの中に置いておくくらいでちょうどいい。話し始めるまでに数か月から1年以上かかる沈黙期があるのはごく普通のことなので、「聞いているのに話さない」を失敗と受け取らないでください。
幼児英語教室やプリスクールを検討し始めるのもこの時期です。ただし、費用が一気に跳ね上がる領域でもあります。近年は自治体や国の支援制度も動いており、インターナショナルスクールの無償化・補助金がどこまで使えるのかは、検討前に必ず確認しておくと判断が変わります。やらないこと:週1回の教室に「バイリンガルになる」ことまで期待すること。週1回50分は年間およそ40時間で、前述の学校英語とほぼ同じ量にすぎません。
6〜9歳:読み書きの扉を開ける、いちばんの分岐点
小学校に入り、生活が一気に日本語一色になる時期です。ここで多くのご家庭が失速します。同時に、フォニックスと多読を始めるのに最適なタイミングでもあります。音と文字がつながると、子どもは自分で英語を取りに行けるようになる。ここを越えられるかどうかが、その後の伸びを大きく分けます。
この時期に意識してほしいのは、「英語を勉強する」から「英語で何かを知る」への切り替えです。英語で恐竜を調べる、英語で実験の動画を見る。目的が英語の外側にあると、子どもは急に前のめりになります。やらないこと:学年相当の英語力を求めること。読める本のレベルは、日本語の読解力より数年遅れて当たり前です。
9〜12歳:CALP(学習言語)を育てる、最後の助走期間
抽象的なことを考える力が伸びてくる、いわば思考の第二成長期です。この時期に英語で教科の内容を扱う経験を積めるかどうかが、中学以降の景色を決めます。理由は単純で、前述のCALPが5〜7年かかるからです。小学校高学年で始めれば、高校に入るころに実を結ぶ計算になります。
「もう遅いのでは」と思われたかもしれません。そこは安心してください。ジョシュア・ハーツホーン氏、ジョシュア・テネンバウム氏、スティーブン・ピンカー氏らが約67万人のデータをもとに2018年に学術誌Cognitionで発表した研究では、文法を学ぶ能力は17.4歳ごろまでほぼ保たれ、その後ゆるやかに低下すると報告されています。6歳を過ぎたら手遅れ、という話ではありません。ただし、始めるのが遅くなるほど、必要な年数を確保するのが難しくなる——それだけのことです。やらないこと:中学受験と英語を同じ土俵で競わせること。役割を分けて、時間帯も分けてください。
おうち英語・英会話・対面インターは、それぞれどこで止まるか
どれも否定するつもりはありません。ただ、構造上の得意・不得意ははっきりしています。
おうち英語の壁:親が全部を背負うこと。 0〜6歳では最強の手段ですが、小学校中学年になると内容が親の英語力を追い越し、子ども自身も「お母さんの英語」では物足りなくなります。相手がいないという問題も出てきます。ここから先どう展開するかはおうち英語の次のステップで詳しく整理しました。
英会話スクール・オンライン英会話の壁:育つのが主にBICS側であること。 週1〜2回のレッスンは、英語を口から出す度胸を育てるのに向いています。でも、そこで扱われるのは自己紹介や日常の話題が中心。「英語を学ぶ」場であって「英語で学ぶ」場ではないため、CALPは伸びにくい設計です。
対面インターナショナルスクールの壁:就学義務と、費用。 ここは制度の話なので、正確に書きます。文部科学省は、日本国籍を有する子を一条校として認められていないインターナショナルスクールに就学させても学校教育法第17条に規定された就学義務を履行したことにはならないと明示しています。さらに、一条校でないインターナショナルスクールの小学部を終えた子が中学校から一条校への入学を希望しても認められない、とも記載されています。制度の全体像はインターナショナルスクールとは何かで解説していますが、フルタイムでの入学は進学ルートそのものを設計し直す決断だということです。加えて学費は日本の私立とは桁が変わります。日本の学校の良さを手放さずに、世界を足したい——そう考えるご家庭にとって、この二択はかなり重い。
第三の答え:日本の学校に籍を残したまま、「英語で教科を学ぶ時間」を足す
0〜12歳のロードマップを最後まで見てくると、必要なものがはっきりします。週に1〜2コマでいいから、英語で教科を学ぶ時間。そして日本語と日本の学校生活を、削らないこと。この2つを同時に満たす形が、ダブルスクール——日本の学校に通いながら、放課後や週末にオンラインでインターナショナルスクールの学びを併用するという考え方です。
NIJIN GLOBAL ACADEMY(NGA)は、2027年9月に開校予定のオンラインインターナショナルスクールです。運営は日本の株式会社NIJIN。日本の学校に籍を残したまま参加できるので、就学義務は日本の学校でクリアしたまま、進学ルートも今の友だち関係もそのままです。学ぶのは英会話ではなく、算数・理科・社会などを英語で考える本物のインター型。順位や偏差値で競わせず、少人数の対話を通じて「自分と世界を、好きになる」ことを大切にしています。対象は6〜18歳。いきなり英語漬けにするのではなく、日本語の支えを前提に、少しずつ英語の割合を増やしていく設計です。学費は対面インターナショナルスクールの約5分の1を目標にしています(開校前のため具体額は非公開です)。オンラインで小学生がインターの学びを受ける形についてはオンラインのインターナショナルスクール(小学生)にまとめました。
正直に書いておきます。NIJINが運営するオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」には900名以上が在籍していますが、NGA自体はまだ開校前で、実績はこれからです。そして、校庭を走り回ることも、教室で肩を並べる友だちも、オンラインには用意できません。そこは対面の学校のほうが優れています。だからこそ、どちらかを選ぶのではなく、役割を分けて両方持つのが現実的だと考えています。


今日から始める3ステップ
教材を買い足す前に、やることがあります。順番を守ってください。
まず、今の言語環境を「時間」で棚卸しします。1週間で、お子さんが英語に触れている時間は実際に何時間ですか。そのうち、英語で考えていた時間はどれくらいですか。動画を流していた時間と、英語で誰かとやりとりした時間は分けて数えてください。ほとんどのご家庭で、この数字はイメージより小さく出ます。落ち込む必要はありません。ここが出発点だとわかるだけで十分です。
次に、年齢に合った「英語で学ぶ」を週1コマだけ足す。0〜6歳なら親子で英語の絵本を読む時間、6〜9歳なら英語で何かを調べる時間、9〜12歳なら英語で教科を扱う授業。増やすのは量ではなく種類です。既にやっていることをやめる必要はありません。
最後に、半年ごとに役割を組み替える。バイリンガル育児がうまくいかない最大の理由は、才能でも教材でもなく、3歳のときのやり方を9歳にも続けてしまうことです。半年に一度、「今の時期の目標は何か」を書き直してください。それだけで、無駄な焦りがかなり減ります。

※費用・制度は2026年8月時点の公開情報です。最新は各公式でご確認ください。
よくある質問
Q. 小学校高学年から始めても、もう遅いですか?
遅くありません。前述のハーツホーン氏らの研究(Cognition, 2018)では、文法を学ぶ能力は17.4歳ごろまでほぼ保たれるとされています。発音のネイティブらしさは早期のほうが有利ですが、読む・書く・議論するといった学習言語の力は、むしろ思考が育った高学年以降のほうが伸びやすい面もあります。ただし、CALPには5〜7年かかります。今日から数えて、いつ実を結ばせたいかを逆算してください。
Q. 英語を増やすと、日本語が心配です。
とても大切な視点で、私たちも同じ懸念を持っています。カミンズの相互依存の原則が示すとおり、日本語で抽象的に考えられる力があるほど、英語での教科学習も進みやすくなります。日本の学校に籍を残す併用型をおすすめしているのは、この土台を崩さないためでもあります。日本語が不安なご家庭には、日本語を「友達との対話」で学べる姉妹サービス〈ともだちじゃぱん〉もおすすめです(NIJIN運営・子ども向けオンライン日本語)。
Q. 親が英語を話せなくても大丈夫ですか?
大丈夫です。むしろ0〜6歳以降は、親の役割は「英語を教える人」から「英語に出会える環境を用意する人」へ移っていきます。日本在住でバイリンガルに育ったお子さんのご家庭でも、親御さんが英語を話さないケースは珍しくありません。必要なのは英語力ではなく、半年ごとに設計を見直す視点のほうです。
Q. 共働きで、これ以上習い事を増やす余裕がありません。
週1コマから始めていただいて構いません。オンラインなら送迎がゼロなので、掛け持ちで親がいちばん消耗する移動時間が発生しません。また、足すと同時に何かをやめる判断も選択肢です。目的が重なっている習い事がないか、棚卸しのタイミングで一度見直してみてください。
バイリンガルは、才能ではなく時間の使い方の結果です
ここまで読んで、思ったより長い道のりだと感じられたかもしれません。その感覚は正しいです。会話に2年、教科の言葉に5〜7年。近道はありません。
それでも、悪い知らせばかりではありません。必要なのは毎日を英語漬けにすることではなく、時期に合った時間を、少しずつ、長く積むことだからです。0〜3歳の歌も、6歳のフォニックスも、10歳で英語で理科を考えた1時間も、全部つながっています。そして、その積み木の土台には日本語があります。日本在住であることは、その土台をいちばん自然に育てられるという意味で、実は強みでもあるのです。
お子さんが伸びる時期を、親が決めることはできません。それでも、環境を用意することはできます。今の生活を壊さずに、足りない種類の時間だけを足す——その一歩を探しているなら、開校に向けた準備の様子をのぞいてみてください。
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