「英語のためにと思って動くけれど、この子の日本語はどうなるんだろう」——教育移住を具体的に考え始めた方が、いちばん最後まで手放せない不安がこれです。先に結論をお伝えします。海外に出ても、子どもの日本語は守れます。ただし「暮らしていれば自然に残る」ものではなく、意図して時間を確保しないと細っていくのが現実で、育つまでには年単位の時間がかかります。この記事では、文部科学省の制度や継承語(母語)研究をもとに、日本語が細る仕組み・家庭でできる支え・帰国後の国語と入試までを正直に整理し、そもそも移住せずに国際教育だけを足すという第三の選択肢もご紹介します。移住を否定する記事ではありません。どちらの道でも、日本語は守れます。
この記事でわかること
- 教育移住で日本語が細るのは、努力不足ではなく「時間の総量」の問題だということ
- 生活の日本語と、教科書を読む日本語(学習言語)の差と、育つのにかかる年数
- 補習授業校など日本語を支える制度と、それが使えないご家庭の現実
- 帰国後の編入・帰国生入試で、国語がどう問われるか
- 移住しないまま国際教育を足す=日本語環境を保ったまま世界とつながる第三の道

教育移住で日本語が細るのは、努力不足ではなく「時間の総量」の問題
海外に移り、お子さんが現地校やインターナショナルスクールに通い始めると、平日の起きている時間の大半が英語(または現地語)に置き換わります。日本語は家庭の会話と就寝前の絵本だけ、という状態になりやすい。つまり日本語が弱くなるのは、ご家庭の熱意の問題ではなく、単純に日本語に触れる時間が生活の隅に追いやられるからです。ここを理解しておくと、対策は「頑張る」ではなく「時間を確保する」に変わります。
もうひとつ知っておきたいのが、言語には二つの層があるという考え方です。バイリンガル研究者ジム・カミンズが整理した生活言語能力(BICS)と学習言語能力(CALP)の区別では、日常会話は比較的短期間で身につく一方、教科書を読み、要約し、意見を書くための言語は育つのに5〜7年ほどかかるとされています。これは英語にも日本語にも当てはまります。だから海外で暮らすお子さんは、家族との会話は流暢なのに、学年相当の国語の文章になると急に止まる——という状態になりやすいのです。
この延長線上で語られるのがダブルリミテッドという言葉です。二つの言語環境にありながら、どちらの言語も年齢相応の力に届いていない状態を指します。ただ、この語は不安を煽るために使うべきものではありません。バイリンガル教育研究の中島和子氏は、『母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究』第3号(2007年)で、これを「ダブルリミテッド・一時的セミリンガル現象」として論じています。固定的なレッテルではなく、環境しだいで変わりうる状態として捉える視点が大切です。怖がるのではなく、設計する。それが親にできることです。
制度の側から見ても、日本語の維持に手当てが必要なことははっきりしています。文部科学省によれば、海外の日本人学校は94校・在籍約1万6千人(令和6年4月15日現在)。これに対し、現地校やインターに通う子が放課後や週末に日本語で学ぶ補習授業校は51カ国・1地域に242校、在籍約2万1千人で、その授業は国語を中心に組まれています。国がこれだけ国語中心の補習の場を整えていること自体が、「海外では日本語は意識的に足さないと育たない」という事実の裏返しなのです。

「補習校に通えばいい」——それが簡単ではないご家庭が多い理由
日本語維持の王道は補習授業校です。国内と同じ教科書で国語を軸に学べる場は本当に心強い存在ですが、実際に使えるかどうかは条件がそろって初めての話になります。
1. そもそも通える距離にあるか。242校といっても世界51カ国・1地域に散っており、都市によっては片道1時間以上、あるいは在住地域に一校もないというケースがあります。教育移住先を「学費と治安と気候」で選んだ結果、日本語の受け皿が近くにない、というのは珍しくありません。
2. 週末がまるごと埋まる。補習校は土曜開講が中心で、現地校の宿題に加えて補習校の宿題も乗ります。お子さんによっては「せっかくの休みが勉強で終わる」と感じ、日本語そのものを嫌いになってしまうこともあります。日本語を守るはずの時間が、日本語を遠ざける原因になる——移住後に感じやすいこうしたギャップは教育移住の後悔でよくあることでも整理しています。
3. 結局、家庭の伴走が前提になる。海外・帰国子女教育を支える公益財団法人海外子女教育振興財団(JOES)は、赴任前から帰国後までの教育相談、通信教育、外国語保持教室、帰国生対象としては国内最大規模の学校説明会などを行っています。制度も情報も、探せばあります。それでも日々の音読を聞き、漢字を見てあげるのは家庭です。現地生活の立ち上げに追われる時期に、これは相当な負荷になります。
だからこそ、選択肢は多いほど安心です。日本語が不安なご家庭には、日本語を「友達との対話」で学べる姉妹サービス〈ともだちじゃぱん〉もおすすめです(NIJIN運営・子ども向けオンライン日本語)。プリントを一人で埋めるのではなく同年代と日本語で話す時間をつくれるので、補習校が近くにないご家庭の現実的な受け皿になります。教育移住そのものの全体像は教育移住とは?完全ガイドにまとめています。
第三の選択肢:移住しなければ、日本語環境は「守るもの」ではなく「あるもの」
ここで一度、視点を広げてみてください。教育移住のゴールが「子どもに国際的な学びを届けること」なら、その学びをオンラインで家に届けるという道があります。私たちNIJIN GLOBAL ACADEMY(NGA)は2027年9月開校予定のオンライン・インターナショナルスクールで、日本の学校に籍を残したまま、放課後や週末に世界とつながる学びを足すダブルスクールという形を大切にしています。
この形の利点は、日本語の話に限れば非常にシンプルです。平日の日中は日本の学校にいるので、国語も友だちとの雑談も、日本語のまま毎日入り続ける。日本語を「維持する努力」として別枠で確保する必要がありません。就学義務も在籍している日本の学校で履行されるため、進学ルートも変わりません。そのうえで、英会話ではなく英語で教科を学ぶ本物のインター型の学びを足していきます。
設計思想としても、NGAは日本語の支えを前提に、少しずつ英語へ進みます。継承語研究が示してきた「母語の土台が第二言語の伸びを支える」という考え方と同じ方向です。順位や偏差値で競わせず、少人数の対話を通じて「自分と世界を、好きになる」ことを目指します。学費は対面インターの約5分の1を目標にしています(開校前のため具体額は非公開です)。運営は日本の株式会社NIJIN。オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」には900名以上が在籍していますが、NGA自体はまだ開校前で、実績はこれからです。
そしてこれは、移住を否定する選択肢ではありません。オンラインなら引っ越しても学びが途切れないので、将来ご家族が海外へ移ることになっても続けられます。「今は動かない」でも「いつか動く」でも使える——それがこの道の強みです。


日本語を守りながら、世界を足していく3ステップ
移住するにせよ、しないにせよ、順番は同じです。まず日本語のゴールを決めること。「家族と楽しく話せればいい」のか、「日本の本を自分で読めるようにしたい」のか、「日本の学校に戻っても国語で困らないようにしたい」のかで、必要な量がまったく違います。次に毎日の量を先に押さえること。学習言語が育つには5〜7年という時間軸を前提にすると、週1回まとめて2時間より、毎日15分の音読と読書のほうが効きます。そして最後に世界とつながる学びを足す。日本語の時間が固定できていれば、英語を増やしても土台は崩れません。
帰国後についても触れておきます。日本国籍のお子さんは帰国すれば学齢に応じて公立の小中学校に編入できますが、海外にいた期間の国語の積み残しは自動的には埋まりません。中学・高校の帰国生入試も、英語だけで完結する学校ばかりではなく、国語や作文・小論文で日本語の力を問う学校が増えています。出願資格(在外年数・帰国後の経過年数など)も学校ごとに大きく異なり、東京都立国際高等学校のように事前の応募資格確認が必要な学校もあります。志望校の募集要項で必ずご確認ください。

※費用・制度は2026年7月時点の公開情報です。最新は各公式でご確認ください。
よくある質問
Q. 海外に出て何年くらいで、日本語が危なくなりますか?
A. 年数だけで線を引くことはできません。年齢、渡航前の日本語の力、家庭での日本語の量で大きく変わるからです。ただ目安として、教科書を読み書きする学習言語は5〜7年かけて育つものなので、渡航時に読み書きが完成していない小学校低学年ほど、意識的な補いが必要になります。逆に言えば、日本語で話す相手と読む本を確保できていれば、海外にいても伸ばし続けられます。
Q. 移住せずにオンラインで英語を増やすと、今度は日本語が犠牲になりませんか?
A. ダブルスクールは日本の学校を辞める形ではありません。平日の日中は日本の学校で日本語のまま学び、放課後や週末に英語の学びを足す形なので、日本語の時間が削られるわけではないのがこの選択肢の要点です。NGAも日本語の支えを前提に、少しずつ英語へ進む設計にしています。ただし「バイリンガルはすぐに完成する」ということは、どんな方法でもありません。英語も日本語も、育つには年数がかかります。
Q. 補習授業校が近くにありません。何から始めればいいですか?
A. まずは日本語を話す相手を週に何回つくれるかから考えるのが現実的です。プリント教材だけでは会話が育たず、会話だけでは読み書きが育ちません。オンラインの日本語の場と、毎日の音読・読書を組み合わせるのが、負担のわりに効果が出やすい形です。帰国後の進路や編入の相談は、海外子女教育振興財団の教育相談も活用できます。
その不安は、お子さんを大切に思っているからこそ生まれています
「日本語が心配」という気持ちは、迷いではありません。お子さんが将来、自分のルーツを自分の言葉で語れるようにという願いそのものです。海外に出るなら、日本語の時間を最初に確保してから世界へ踏み出せばいい。移住しないなら、日本の学校で日本語の土台を守ったまま、世界を少しずつ足していけばいい。日本語も英語も、お子さんの世界を広げるための道具です。どちらかをあきらめる必要は、まったくありません。あなたとお子さんに合ったペースで、その一歩を選んでいきましょう。
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